っつり見下している。藤吉はうずくまった。
「弥吉どん。やい。弥吉、わりゃあ何だな、お糸と役者の乳繰|合《え》えを嫉妬《やっか》んで、よんべおりきんとこから出て来る役者を、ここらで待ってばっさり[#「ばっさり」に傍点]殺《や》り、えこう、えれえ手の組んだ狂言《からくり》を巧《たくみ》やがったのう、やいやい、小僧、どうでえ、音を立てろっ。」
「親分さま。」弥吉が白い顔を上げた。「ま、何ということをおっしゃります。あなた様も御存じのとおり、私はこの十日ほどお店を明けて浦和へ帰っておりました。戻ったのが今朝のこと、なんで昨夜江戸のここでその役者とやらを殺し得ましょう。親分様としたことがとんでもないお眼力《めがね》違い、この上もねえ迷惑でござんす。」
「うん、そうか。こいつあ俺らが悪かったな、だがの、弥吉どん、何だってお前は詫びたんだ?」
「詫びたとは?」
「詫びたじゃねえか。つい今し方、壁の中の彦っぺに、御免なさい[#「御免なさい」に傍点]、って手を突いたじゃあねえか。よ、ありゃあいったいどういう訳合でござんすえ?」
「そんなこと、申しましたかしら――。」
「なにをっ! こう、手前俺を誰だと思
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