「縮緬ずくめの装束? ふうん。」
「ふうん[#「ふうん」に傍点]もねえや。知れたことよ。殺《ば》らされたのあその芝居者《こやもの》だ。眉毛のねえのも女形《おやま》なりゃこそ。何てったけのう、え、彦。」
「嵐翫之丞。」
「嵐家なら、屋号は?」
「岡島屋、豊島屋、葉村屋、伊丹屋に――。」
「うん?」
「吾妻屋。」
「それ見ろ。」
 彦兵衛は眼をぱちくり[#「ぱちくり」に傍点]、首の件を知らないから呑み込めずにいると、役者のことは初耳ながらも、勘次はなるほどと小手を叩いて、
「首の出所は知れやした。が親分、犯人は?」と思わず乗り出す。
 釘抜藤吉は哄笑した。
 狭い棟割が揺れをほどの大声だった。そしてやはり寝たままで、
「ほし[#「ほし」に傍点]ゃあお前、勘の前だが、日が暮れりゃあ出べえさ。」
 と突っ放すように言い捨てたが、ちょっと真顔になって、「勘、お糸は?」
「あい、まだおりきの家に。」
「そうけえ。」と藤吉は眼を閉《つぶ》って、「俺らあ一寝入りやらかすとしょう。こうっ、四つ打ったら起してくんな。そいから何だぞ野郎ども、好えか、その時|雁首《がんくび》揃えて待ってろよ――。」

   
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