《とむらい》彦兵衛が、愛用の竹籠を背に諏訪《すわ》因幡守様の屋敷前を馬場へかかると、路地や門口を面白ずくに歩き廻っている河原者らしい一隊に出逢った。後になり前になり、聞くともなしにしゃべり散らすのを聞いて行くと今いったような騒ぎ。何のたしにもなるまいが小耳に挾んで来た、藤吉より一足先に帰宅《かえ》っていた彦兵衛は、こう言って伸びをした。
ふん[#「ふん」に傍点]と鼻で笑った藤吉、そうかとも言わずに退屈そうな手枕、深々と炬燵《こたつ》に潜って、やがて鬱気もなげな高鼾が洩れるばかり――。
「お、親分え、大事だ。勘弁ならねえ。」
路地の中途から呶鳴って、勘弁勘次が毬のように転げ込んで来たのは、それから一時ほど後だった。
お糸のあとを慕った勘次、岡崎町の桔梗屋を出で、堀長門から素袍《すおう》橋、采女の馬場へかかったかと思うと、西尾|隠岐《おき》中屋敷へ近い木挽町三丁目のある路地口の素人家《しもたや》、これへお糸がはいるのを見届けてからさり[#「さり」に傍点]気なく前を通ると、お糸の声で、
「婆や、あの人は?」
と言うのが聞えた。すると内部《なか》から障子が開いて、白髪の老婆が首を出し、
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