尻をからげて、清水で桔梗屋の前構えをせっせ[#「せっせ」に傍点]と洗っていた。
陽が水溜りに映えて、そのころから晴れになった。
三
ちょうど二月、守田座には本所の師匠の書卸し「船打込橋間白浪《ふねにうちこむはしまのしらなみ》」がかかって、これから百余日も打ち通そうという大入続き。小団次の鋳掛松、菊次郎のお咲、梵字《ぼんじ》の真五郎と佐五兵衛の二役は関三十郎が買って出て、刀屋宗次郎は訥升《とつしょう》、三津五郎《やまとや》の芸者お組がことの外の人気だった。
この舞台《いた》に端役ながらも綺麗首を見せていた上方下りの嵐翫之丞という女形《おやま》、昨夜|閉《は》ねて座《こや》を出たきり今日の出幕になっても楽屋へ姿を見せないので、どうやら穴だけはちょっと埋めて間に合ったものの、納まりかねるのが親方の肚、なんでも木挽町の三、四丁目采女の馬場あたりに泊込《しけこ》みの家があるらしいというところから、下廻りや座方の衆がわいわい[#「わいわい」に傍点]噪《さわ》いで先刻もやたらにそこらを歩いていた――という彦兵衛の話。
早朝から道楽の紙屑拾いに出て行った藤吉部屋の二の乾児の葬式
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