でえ、野郎、ぴん[#「ぴん」に傍点]と来るか。」
「いっこう来やせんね。」
「だらし[#「だらし」に傍点]がねえな。」薄笑いが藤吉の口尻に浮ぶ。「首は宜え。が、胴体がどうした?」
「どこにどうしてござろうやら、さ。」
「そのことよ。俺にも見得《けんとく》が立たねえ。犯人《ほし》は?」
「へっ、真闇黒《まっくらがり》。勘弁ならねえや。」
「はっははは、御同様だ。勘、掘じくれ。」
 突如藤吉の指さす方、天水桶の傍に、紫の煮出し殻を四角の箱から開けたまま強飯《こわめし》みたいに積み上げてある江戸紫屋自慢の看板。
 が、掘じくるまではなかった。何か出て来るかもしれないと勘次が上部《うえ》へ指を入れると、触った物があるから引き出した。紫縮緬《むらさきちりめん》女持の香袋《においぶくろ》、吾妻屋の縫《ぬい》がしてある。
「堅気じゃねえな。」
 にやり[#「にやり」に傍点]とした藤吉、に[#「に」に傍点]組に首を持たしてひとまず番所へ預けにやった後、殻を払った香袋《においぶくろ》を懐中にして、また桔梗屋へはいって行き、事納《ことおさめ》に竿の代りに青竹を立てた仔細を胡散《うさん》臭《くさ》く白眼《に
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