って引き揚げた首、勘次の差しかける傘に隠れて、藤吉が検する。
「や、白髪じゃねえか。」呻いた藤吉、ぐい[#「ぐい」に傍点]と濡髪を扱《しご》いてみてから、「うむ、若白髪だな、勘、見ろい、これ、手に、墨が落ちるぜ、ふうん、染めてやがったか。や、や眉毛がねえぞ。だが、顔付《そっぽ》は皆目《まるきり》わからねえ。よくもこう切り細裂《こまぜ》えたもんよなあ。怨恨だ、なあ勘、われに訊くが男の恨みでいっち[#「いっち」に傍点]根深えのあ――?」
「はあて、知れたこと。女出入りさ。」
「おう、そこいらだんべ。この界隈《けえうええ》に行方知れずは?」
「ありゃあ耳に入るはず。」
「だが勘、昨夜の今朝だぞ。」
「これだけの人たちだ、心当りの者あ自身突ん出て来やしょう。」
「うん。それもねえところ見りゃあこの首あ遠国の者かな――が、江戸も広えや、のう。」
「あいさ、斬口あ?」
「鈍刀《どす》だ、腕もねえ――さ、口中だ。歯並び、舌の引釣り、勢《せい》があるぞ。」
「若えな。」
「うん。二十二三――四五、とは出めえ。細頸――小男だな。勘、聞け、好えか、二十二三の若白髪、優型で眉毛のねえ――これが首の主だ、どう
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