」
「そうよなあ。」
呆然《つくねん》とした藤吉の耳へ、勘次の声が戸外から、
「親分、一件を下ろしたぜ。」
「そうか。よし。」
皆が一度に弥吉に首の経緯《いきさつ》を話す声、それを背中に聞いて、藤吉、往来へ出た。
桔梗屋の青竹獄門、ぱっ[#「ぱっ」に傍点]と拡がったから耐らない。雨の日の無為《しょうことなし》、物見高い江戸っ児の群が噪いで人|集《だか》りは増す一方、甘酒屋が荷を下ろしていたが実際相当稼ぎになるほどの大人気。
「いよう、合点長屋あっ!」
「大釘抜っ!」
「親分千両!」
藤吉の姿にいろんな声がかかる。見渡したところ、早や先刻の遊人は立去ったらしかった。
「ちっ、閑人が多すぎらあな。」
呟いた藤吉、勘次の手から竹付きの首を受け取ったものの、顔面《かお》に千六本の刀痕《かたなきず》、血に塗れ雨に打たれて人相も証拠も見られないとしるや、二、三寸刺さった青竹を物をも言わず引き抜いて、ざぶり、首を天水桶へ突っ込んだ。並居る一同生きたこころもない。に[#「に」に傍点]組の常吉、海老床甚八、それに番頭と、旅装束のままの弥吉とが、力をあわせて押し返す群衆を制している。
手早く洗
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