んで来た若い男。手甲脚絆に草鞋に合羽、振分の小荷物が薄汚れて、月代《さかやき》の伸び按配も長旅の終りと読める。肩で息して首を振りながら、
「お店の前――な、何がありましたえ? く、首とかなんとか――私もちら[#「ちら」に傍点]と見ましたが、ど、ど、どうしたわけでござんすいったい?」
「おう、弥吉、よう早う帰りました。今もな、八丁堀の親分と、お前の噂をしていた矢先。」
「弥吉どん、お戻り。」
「弥吉どん、お戻り。」
「はいはい、偉くお世話になりました――これはこれは親分さま、いらっしゃいまし――旦那さま、浦和からくれぐれもよろしくと申しました。これは浦和名産五|家宝※[#「米+巨」、第3水準1−89−83]※[#「米+女」、第3水準1−89−81]《かぼうおこし》、気は心でございます。お糸様は?」
「おうお、なにからなにまでよく届きます。糸かい、首の騒ぎで気分を悪うしてな、頭痛がするとか言うて奥に臥《ふせ》っとりますわい。」
「お糸さんは、」藤吉が口を出した。「首を見たのけえ?」
「いいえ親分、見るどころか、それと聞いたら気味悪がってもう半病人、娘ごころ、気の弱いのに無理はござんすまい。
前へ 次へ
全31ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング