がってんをするようにゆさゆさ[#「ゆさゆさ」に傍点]と動いて、背後に反った。思わずあっと叫んで人々は逃げ散る。無花果《いちじく》のような顎の下の肉、白い脂肪、断面《きりくち》あらわに首は危く竹の尖頭《さき》に留まっている。
「甚さん。」
藤吉が振り返った。
「発見《めっ》けたなあ誰だね。」
「あっし[#「あっし」に傍点]だ。」常吉が答える。「半時ほど前だから卯の上刻だ、親分も知ってなさるだろうが采女《うねめ》の馬場の中屋敷ね、あすこの西尾様お長屋の普請場へ面《つら》出しすべえとこちとら[#「こちとら」に傍点]早出だ、すたすた来かかってふい[#「ふい」に傍点]と見るてえとこの獄門じゃあねえか、いや、親分の前《めえ》だが、これにゃああっし[#「あっし」に傍点]も胆を潰したね。」
「何のこたあねえ、首人形だ。」
勘弁勘次が口を出した。すると弥次馬の中から、
「違えねえや。京名物は首人形とござい。」
と言う声がした。藤吉が見ると、色の浅黒い、遊人《あそびにん》風俗の見馴れない男が立っていた。
藤吉、別に気にも留めないと言ったようす。
「誰でえ、首は?」
「あ、それがさ。」と藤吉は耳の背後をかいて、
「桔梗屋さんと関係《かかりええ》があろうはずもねえし、どこの誰だか、からきし人別がつかねえ。もっともね、こう下から白眼《にら》めてるだけじゃあよく相好もわからねえが――」
「おうっ。」見物の遊人がまたしても茶利《ちゃり》を入れる。「おっ、誰かこの近辺に首を失くした者あねえかとよ。」
じろり[#「じろり」に傍点]と藤吉が男を見やる。勘次が囁いた。
「親分、あの野郎、勘弁ならねえ。」
「まあま、ええってことよ。」藤吉は笑った。「それよりゃ桔梗屋だ、いや、この首だ。」と藤吉を振り返って、
「のう、晒《さら》してもおけめえ。常さん、下してやんな。功徳《くどく》になるぜ。勘、われも手伝え。」
「あい。」
常吉と勘次、ただちに竹を外しにかかる。藤吉はずい[#「ずい」に傍点]と桔梗屋の店へ通った。
二
主人八郎兵衛と番頭、度を失って挨拶も忘れたものか、蒼褪《あおざ》めた顔色も空虚《うつろ》に端近の唐金《から》の手焙《てあぶ》りを心もち押し出したばかり――。
女子ども、と言ったところで内儀は先年死んでお糸という独り娘、固いというもっぱらの噂、これと下女と飯焚婆の三
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