あることが知れた。探ってみると、それが賭場で顔見知りの御家新なので、一石二鳥と出かけて今夜草加屋殺しを演じ、犬を使って疑いの矢を恋|仇敵《がたき》へ向けようとしたのだった。伊兵衛が死際に何か言ったというのも、その指先の地へ八百駒の提灯を置いておいたのも、すべて彼の、事を入り組ませようとした肚にほかならない。犬を尾けるどころか、自分が犬を動かして御家新の家まで行ったのだが、なんとなくあぶなく思って、人もあろうに釘抜藤吉を亡き者にしようとし、そして、すぐに帰って何食わぬ顔をしていた。
 引き立てられて、佐平次が腰を上げると、土間にいた甚右衛門、泣くような瞳で主人を凝視《みつ》めた。この時、表戸がほとほと[#「ほとほと」に傍点]鳴って、声がした。藤吉あわてて佐平次の口を押さえた。
「おうっ、鋳かけ屋、いるか。俺だ、新だ。手慰《てあそ》びも危ねえぜ。今し方すかねえのが来てな、どこへ行ったと言うのだ。場へ手がはいっちゃあやりきれねえから、お前んとこにいたと言っといたぞ。うまく合わしてくれ。」
 家内では三人、首引っ込めて舌を出す。彦が答えた。
「あいよ、合点。」



底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
   1970(昭和45)年1月15日初版発行
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年5月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング