あれ》になって借りて来たんだ。杖は荷になると見て預けて出た――どうでえ。」藤吉は続ける。「人間にゃあ変《ひょん》な気性があっての、三つ四つから物を画く。形にならねえ物をかく。三つ児の魂百までだ、それが抜けねえ。ええか、もっとも十人十色、形あ違う。が、なくて七癖あって四十八癖、ぼんやりしてる時あお互えによく為体の知れねえ図面や模様を塗たくるものよ。のう、先刻からお前たちに筆を預けて、俺らあ寝た風《ふり》をしてたが、勘、われあ何を書《け》えた?」
「蚯蚓《みみず》の行列、はっはっは、だらしがねえや。」
「彦は?」
「屑っ籠の目でがしょう、自身にもはっきりしやせん。」
「佐平次どん、お前さんは?」
佐平次、丸めて捨てようとした。逸早く藤吉が奪った。見ると、墨黒ぐろと三角の形!
「木槌山の柳の下に、矢尻で掘ったこの印しがあったけのう。」
「それがどうとかしましたかえ。」
「や!」藤吉は佐平次の裾を指さした。赤い染点《しみ》が付いている。「そりゃあ何だ、そりゃあ?」
「これか、」がらり巽上《たつみあが》りに変った佐平次、「血じゃあねえから心配するな。」
「血じゃあねえと? おう、血なら水に落ち
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