藤吉は嘯《うそぶ》いた。
「逸見流弓術の名人、御家新。甚右衛門が嗅ぎ当てました。」と佐平次。
「そのことよ。」と藤吉しばらく瞑目していたが、「佐平次どん、筆を三本、紙が三枚、何でもいい、あったら出して筆にたっぷり[#「たっぷり」に傍点]墨を含ませて、銘々に筆と紙を渡してやんな。お前さんも筆を取って。」
三人、膝に紙を伸べて、筆を持って、不思議そうに控えた。藤吉は手枕、横になっている。
「さ、みんな俺らの言うことを書くんだぞ。」
「勘弁ならねえが、」と勘弁勘次、「こちとら無筆だ。」
「勘、黙ってろ。」
「へえ。」筆の穂を舐めて三人は待っている。ところが藤吉、ぐう[#「ぐう」に傍点]ともすう[#「すう」に傍点]とも言わない。いや、そのうちぐうすう[#「ぐうすう」に傍点]言い出した。高鼾《たかいびき》である。
三人が三人とも、やがて持てあます退屈。
とうとう彦が、我慢し切れずに声を掛けた。
「親分え、もし、親分え。」
勘次も和した。
「御家新とやらを押せえに出張《でば》ろうじゃごわせんか。」
大欠伸《おおあくび》と一緒に身を起した藤吉、仮寝《うたたね》していたにしては、眼の光が強過
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