」
鉄瓶の湯がちんちん[#「ちんちん」に傍点]沸いて、佐平次の心尽し、座蒲団が三つ並んでいた。洗足《すすぎ》をとった藤吉、気易に上り込んだ。宗十郎店は佐平次の住居。勘次彦兵衛はまだ来ていない。
「どうでした、御家新おそれいりましたか。」
「口を開かねえ。が、俺らにゃもうわかってる。」
「さいでございましょうとも。」
言っているところへ勘次が帰って、屍骸は番屋へ引き取らせたと復命した。間もなく彦も顔を見せたが、これはえらく意気込んでいた。
「八百駒あ他行だったが――。」
「他行?」藤吉が聞き咎めた。「この荒れの夜中にか。」
「あい。それで土間を覗くてえと、親分、驚いたね、草加屋の杖がころがってた。」
「ふうむ。」
「どうもこりゃあ八百駒の仕事に違えねえ。同勢四人、揃えて乗り込んで待ちやしょうか。」
「まあ、待て。」
「だが、逃《ずら》かる。」
「なあに、ずら[#「ずら」に傍点]かりゃしねえ。」
「はははは。」佐平次が笑い出した。「彦さん、犯人は先刻こっちへ割れてますよ。ねえ親分。」
「え? ほんとでげすか。」
「勘弁ならねえ。」
勘と彦とが同時に藤吉を見詰める。
「嘘をつくけえ!」
前へ
次へ
全32ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング