った。
「誰だ、なんだ今ごろ。」
 気さくに開けたが、御用提灯を見ると、固くなった。藤吉はさっそく下手に出て、まず宵から今までの動きを訊いてみたが、御家新、口唇を白くして語らない。
 いよいよ怪しい――弓一筋の家からぐれ[#「ぐれ」に傍点]出た小悪人、そう言えば矢文の筆つきも武張っていた。藤吉、抜いた時の要心をしながら、なおも一つ問を重ねて行った。すると御家新、苦しくなってか、こう申し立てた。
「今夜は友達の家へ行っていま帰ったところ、その友達は鋳かけ屋で、明石《あかし》町宗十郎店に住む佐平次という者だが、何の用でそんなことを訊くのだ。」
 見え透いた虚言《うそ》、藤吉はにっこり[#「にっこり」に傍点]した。そしてなれなれしく、一本ずい[#「ずい」に傍点]と突っ込んだ。
「弓がおありかね?」
 御家新はまた黙り込んだ。一筋繩ではいかない、こう観念した藤吉、驚いている御家新を残して、急ぎ帰路についた。
 でたらめを吐いた以上、明朝と言わず今すぐに佐平次方へ口を合してくれと頼みに出かけるであろう、と思った藤吉、途中《みちみち》うしろを振り返って行くと、明石町の手前、さむさ橋の際へ来た時、は
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