はちりぢりばらばらになって、もう他人のことなぞ構ってはいられない、銘々く[#「く」に傍点]の字型に身を屈《かが》めて、濡れ放題の自暴自棄《やぶれかぶれ》、いつしか履物もすっ[#「すっ」に傍点]飛んで尻端折りに空臑裸足《からすねはだし》、勘次は藤吉を、藤吉は彦兵衛を、彦は甚右衛門をと専心前方を往く一際黒い固体《かたまり》を望んで、吹抜けの河岸っ縁、うっかりすると飛ばされそうになるのを、意地も見得も荒風に這わんばかりの雁行を続けて行くことになったのだ。
真夜中。人通りはない。礫《つぶて》のような雨が頬を打って、見上げる邸中の大木が梢小枝を揺り動かして絶入るように※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》くところ、さながら狂女の断末魔――時折、甚右衛門の声が闇黒を裂いて伝わって来る。
葬式《とむらい》彦は一生懸命、合羽をつぶ[#「つぶ」に傍点]に引っかけて身軽に扮《つく》っているとは言うものの、甚右衛門は足が早い。ともすれば見失いそうになる。これにはぐ[#「はぐ」に傍点]れては嵐を冒《おか》してまでわざわざ出張ってきた甲斐がないし、さりとてあまり進み過ぎては後につづく藤吉勘次
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