吹色の豚じゃ。己れ、そのうち、伝家一刀の錆にしてくれる。」
「月のねえ夜もありやす。一つ器用にさばきやしょう。」
痩浪人、遊人、そんじょそこらの長屋の衆、口ぐちにささやき合うのが、早くから釘抜連の耳にもはいっていた。だから、もっともらしく顰《しか》めた伊兵衛の死顔を見た時、藤吉は、ははあ、とうとう誰かがやったな、という頭がぴいん[#「ぴいん」に傍点]と来て、格別おどろかなかったわけである。しかし、考えに止まっているうちはともかく、眼と鼻の間でこう鮮かに手を下されてみると、仮りに仏の生前がどうあろうと、また事の起りは一種の公憤にしろ、藤吉の務めはお上向きに対しても自から別な活動《はたらき》を示さなければならなくなる。ところで、草加屋殺しの探索は、やさしいようでむずかしい。藤吉は考える。
何事もそうだが、すべて人殺しには因由《いわれ》に意《こころ》が見えるものだ。殺さなければならないほどの強いつよい悪因縁、これを籠《こめ》る犯人《ほし》のこころもち、これにぶつかれば謎はもう半ば以上解けたも同じことである。この人殺しのこころを藤吉は常から五つに分けていた。国事《おおやけ》に関する暗撃果合
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