越しに葬式彦が首を捻った。
「あいさ、いっそ難物だあね。」
 同ずる勘次。藤吉、しきりに髷をがくつかせていた。
 鬼草《おにそう》というのが、今宵人手にかかって非業《ひごう》の死を遂げた草加屋伊兵衛の綽名だった。鬼というくらいだから、その稼業《しょうばい》も人柄もおよそは推量がつこうというもの。草加屋は実に非道を極めた、貧乏人泣かせの高息の金貸しであった。二両三両、五両十両といたるところへ親切ごかしに貸しつけておいては、割高の利息を貪《むさぼ》る。これが草加屋の遣口《やりくち》だった。貸す時の地蔵顔に取り立てる時の閻魔面、一朱一分でも草加屋に廻してもらったが最後、働き人なら爪を擦り切らしても追いつかないし、商人《あきんど》は夜逃げかぶらんこ[#「ぶらんこ」に傍点]がとどの結着《つまり》。まったく、鬼草に痛めつけられている借人は、この界隈だけでも生易しい数ではない、と言う人の噂。
「血も涙もねえ獣でさあ。あっしゃあいつか人助けのためにあの野郎を叩っ殺してやるんだ。いい功徳になるぜ。」
「あん畜生、生かしちゃおけねえ。」
「鬼の眼にも泪と申す。草加屋伊兵衛は鬼でもないわ。豚じゃ、豚じゃ、山
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