」
「おお、な、何と、何と言ったえ。」
「へえ。俺にゃあわかってる、と口早にね、それだけは聞こえましたが――。」
「なに? 俺にゃあわかってる?」
「へえ。俺にゃあわかってる[#「俺にゃあわかってる」に傍点]――して親分、ああして手で何か指さしながらがっくり[#「がっくり」に傍点]なりましたよ。あああ、嫌な物を見ちまいました。」
なるほど、死人が草の上に延ばした右手人差指の先、そこに畳み提灯がぶら[#「ぶら」に傍点]のまんま抛り出されて、筆太に八百駒《やおこま》と読める。
三
「弓を射たたあ親分、大時代な殺しでごぜえすの。」
勘次が口を出した。が、藤吉は答えもしないで、
「矢が、これ、折れてやがる。中ほどからぽっきり[#「ぽっきり」に傍点]――はてな。」と独語《ひとりご》ちながら、その矢をぐい[#「ぐい」に傍点]と引抜いた。わりに短い。と見ていると、矢羽の下に、勧進撚《かんじんより》が結んである。濡れて破けそうなのを丹念に解いて、拡げた。案の定、矢文である。天誅[#「天誅」に傍点]と二字、達者な手だ。
「弓矢と言い、この文句といい、素町人じゃあねえな。」
親分の肩
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