、呼んでも賺《すか》しても出て来ねえんで――いつにねえこったが変だなあ、と不審ぶって来て見るてえと、この状《ざま》じゃごわせんか。いや、親分さんの前だがあっしも仰天《びっくり》敗亡《はいぼう》しやしてね、係合いにされちゃあ始まらねえから――。」
「お前さん、店は?」
「へえ、この先、明石町の宗十郎店でございます、へえ。――それでその、係合いになっちゃあつまらねえから、不実なようだが見て見ねえふりをすべえ、とあっしゃあこう考えたんでやすが、甚公の野郎が承服しません。どうあってもこの場を動かねえんで――で、あっしも観念しやしてね、甚公は八丁堀によくお邪魔に上って可愛がられているようでございますかち、親分さんをお迎え申して来い、とまあ言い含めて出してやった次第《わけ》なんで――お騒がせして、相済みません、へえ。」
「なんの。よく報《しら》せて下すった。」
「親分。」
佐平次がきっ[#「きっ」に傍点]となった。藤吉は顔を振り向ける。
「思いきって申し上げますが、」と佐平次は少し逡巡《ためら》って、「あっしが駈けつけた時あまだ息の根が通ってましてね、灯を差し向けると一言はっきり口走りましたよ。
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