もそのようでした。へい、あの玄内の野郎、話をしてても碁を打ってても、気が乗って来るとやたらめっぽうに自身の身体を指の先で押えたり、つまんだりいたしますので。が、どうして親分はそれを御存じですい?」
「まぐれ当りでごぜえますよ。」
 と藤吉は笑った。が、すぐと真顔に返って、
「――駿府《すんぷ》へずら[#「ずら」に傍点]かってる喜三《きさ》の奴が、江戸の真中へ面あ出すわけもあるめえ。待てよ、こりゃあしょ[#「しょ」に傍点]っとすると解らねえぞ。そっぽ[#「そっぽ」に傍点]を聞いても芝居を見ても――うん、ことによるとことによらねえもんでねえ。喜三だって土地っ児だ。いつまで草深え田舎のはしに、肥桶臭《こえたごくさ》くなってるわけもあるめえ――がと、してみると野郎乙にまた娑婆っ気を出しゃあがって、この俺の眼がまだ黒えのも知らねえこともあるめえに――。」
「喜三って、あの――。」
「しっ[#「しっ」に傍点]!」
 と伝二郎の口を制しておいて、
「今一つお訊きしてえこたあ、ほかでもねえが、伝二郎さん、その河内屋の隠居と玄内とを二人一緒に見たことが、お前さん一度でもありますのかえ?」
 伝二郎は首を
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