ろ」に傍点]天屋の幟《のぼり》が夕待顔にだらり[#「だらり」に傍点]と下っているばかり――。
当時鳴らした八丁堀合点長屋の御用聞釘抜藤吉の乾児葬式彦兵衛は、ただこうやって日永一日屑物を買ったり拾ったりしてお江戸の街をほっつき廻るのが癖だった。どたんばたん[#「どたんばたん」に傍点]の捕物には白|無垢《むく》鉄火の勘弁勘次がなくてならないように、小さなたね[#「たね」に傍点]を揚げたり網の糸口を手繰って来たりする点で、彦兵衛はじつに一流の才を見せていた。もちろんそれには千里利きと言われた彦の嗅覚が与《あずか》って力あることはいうまでもないと同時に、明けても暮れても八百八町を足に任せてうろ[#「うろ」に傍点]つくところから自然と彦兵衛が有《も》っている東西南北町名|生《いき》番付といったような知識と、屑と一緒に挾んでくる端《はした》の聞込みとが、地道な探索の筋合でまたなく彦を重宝にしていた事実《こと》も否定できない。それはいいとして、困ることは、ときどき病気の猫の子などを大事そうに抱えてくるのと、早急の用にどこにいるかわからないことだったが、よくしたもので、不思議にもそんな場合彦兵衛はぶ
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