り喰《くれ》えやがって。」

      三

「二十五に二十五に十三に一つ――当歳から若年増。」
 藤吉は庭へ唾を吐いた。畳に転がっている女の頬を見たからである。
 摘み上げて嗅いでみたが、臭気《におい》もしない。額半分から左頬へかけての皮膚、ふっくら[#「ふっくら」に傍点]した耳、頭髪と小鬢がもうしわけほど付いているその裏には肉少しと凝《こ》り血がぶら[#「ぶら」に傍点]下っているだけで、古い新しいの見当も立たなければ何でどうして切ったものか、それさえからきしわからない。洗ったように綺麗で、砂一つついていない。古い物なら腐ってもいようし、色も少しは変っていよう。新《あら》なら新でまたその徴《しるし》があるはず。とにかく、犬奴が土中から掘り出したものではあるまい、とすれば――?
 藤吉は寒毛を感じた。衣桁《えこう》から単衣《ひとえ》を外して三尺を伊達に結ぶと、名ばかりの仏壇へ頬片を供えて火打ちを切ってお燈明を上げた。折れた線香からも結構煙は昇る。
 藤吉は茶の間へ坐った。
「閻魔法王五道冥官、天の神地の神、家の内では――。」
 と膝の上の巫女《みこ》の文をここまで読み下して、藤吉は鼻
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