いますと。」幸七は額を板へ擦りつけて、「夜の明ける前にあの騒ぎなんで。表には小僧衆、裏へ出れば人がいるので、お神さんの智慧で、今までこの揚覆《あげぶた》の下にはいっていました。旦那に代ってお斬りになる分には文句もありませんが、人殺しだけは露覚えのないこと――。」
おみつも並んで手を突いた。二人は泣声で申し開いた。密通の段は重々恐れ入るが、孫右衛門殺しは夢にも知らない。こう口を揃えて二人は交々《こもごも》陳弁《ちんべん》に努めた。
味噌松が二人を調べていた。藤吉は黙って見ていた。彦兵衛を呼んで何事か囁いた。彦兵衛は愕いて訊き返した。藤吉が白眼《にら》んだ。
「承知しやした。」
行こうとする彦兵衛を、それとなく藤吉は呼び停めて、
「在ったら口を割ってこいよ。いいか、口だぞ。」
と、それから、荒々しく、
「包み隠さず申し立てりゃあお上へ慈悲を願ってやる。なに? やいやい、まだ知らぬ存ぜぬと吐《ほざ》きやがるか。」
と二人の前へ立ち塞がったが、
「野郎、尻尾を出せ!」
と喚きざま、突然足を上げて幸七の顔を※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]っと蹴った。おみつが庇《かば》お
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