も、事毎に藤吉と張り合って、初手から藤吉が死亡《ない》ものと白眼《にら》んでいる女隠居の行衛を、駒蔵はあくまでも生きていると定めてかかっているらしかった。とはいうものの、藤吉とてもなにもお定――というのがその老婆の名だが――の死を主張するにたる確証《あかし》を握っているというわけでもなかった。ただそんな気がするだけだった。それが、藤吉にとっていっそうもどかしかった。この上は地を掘り返してもお定の屍骸《しげえ》を発見《めっ》けて、それを駒蔵の面へ叩きつけてやらなけりゃあ腹の虫が納まらねえ、と頭の中で考えながら箱崎橋の真中に仁王立ちに突っ立った藤吉は、流れの上下《かみしも》へ眼を配った。
昨夜の大雨に水量《みずかさ》を増した掘割が、明けやらぬ空を映してどんより淀《よど》んでいる。両側は崩れ放題の亀甲石垣《きっこういしがき》、さきは湊橋《みなとばし》でその下が法界橋《ほうかいばし》、上流《かみ》へ上って鎧《よろい》の渡し、藤吉は眇眼《すがめ》を凝らしてこの方角を眺めていたが、ふと[#「ふと」に傍点]小網町の河岸縁に真黒な荷足《にたり》が二、三艘集まっているのを見ると、引寄せられるように歩を
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