進めてぴたり[#「ぴたり」に傍点]と橋の欄干へ倚った。
「なんだ、ありゃあ?」
勘次も凝視《みつ》めた。剥げちょろの、黒塗りの小舟のように見える。なかの一艘はことに黒い。
「勘、この川底《そこ》あ浚ったろうのう。」
「へえ。」と勘次は弥造《やぞう》で口を隠したまま、「八州屋のこってげすけえ?」
「俺が訊いてるんだ。」
「へえ、上から下まで浚えやした、彦の野郎が采配《せえへえ》振って。」
「彦の仕事ならぬかりゃあねえはず。勘、石を抛れ。舟までとどくか。」
橋際へ引き返して拾って来た小石を、勘次は力一杯に投げた。橋と舟との中間に小さな水煙りが立つと見る、その音に驚いてか、たちまち舟から舞い上るおびただしい烏の群、鳴き交す声は※[#「口+伊」、第4水準2−3−85]唖《いあ》として甍《いらか》に響き空低く一面に胡麻を散らしたよう――後には小舟が白く揺れているばかり。
「烏か。」
「あい。」
「小魚でも集りやがったか。」
「あい。」
「勘、冷えるのう。行くべえ。」
歩き出した二人の鼻先に、留守番の筈の葬式《とむらい》彦兵衛が小僧を一人連れて、いつの間にか煙のように立っていた。
「お、お前
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