き直った。
「旦那は昨夜寄合いかね?」
「いえ、あの、」とおみつは顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》を[#「顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》を」は底本では「顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こかめみ》を」]押えて、「母さんのことでお組長屋前の親類まで行ってくるが空が怪しいから足駄だけ出せと言って、暮れ六つ打つと間もなくお出かけになりました。」
「そうそう、婆さまの生死《いきじに》も知れねえうちにまたこの仕末だ。ばつ[#「ばつ」に傍点]の悪い時あ悪いもんでのう。」
藤吉は優しく言った。湿《しめ》やかな空気が流れた。
おみつの話はこうだった。
親戚へ行った主人は五つ半過ぎても帰らない。母親の失踪以来相談に更けて泊り込んでくることも珍しくないので、昨夜も別に気に留めずに、独り床を敷いて横になった。が、どういうものか寝就かれず、時の鐘を数えているうちに雨になった模様。ああ、今夜はとうとう帰らないな、もしまた出て来ても彼家《あそこ》なら傘も貸せば人も付けてくれるはず――こう思うとそれが安心になってか、それから、今朝味噌松に起されるまでおみ
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