ろ。怪我しめえぞ。」
「あっし[#「あっし」に傍点]は? 親分。」
「勘次。お前は立番だ。俺と松さんとでちょっくらお神を白眼《にら》んでくる。松さんがいりゃあ勘なんざかえって足手|纏《まと》い、そこに立ってろ。」
「へえ。」
「誰も入れるな。」
「ようがす。」
 勘次は不平そうに彼方を向いた。彦兵衛は家探しに蔵へはいった。
「親分、御洗足《おすすぎ》を。ま、泥だけお落しなすって――。」
 味噌松が勝手口から盥《たらい》を出した。が、
「すまねえのう。」
 と言ったきり、藤吉は気が抜けたように立っていた。どこからともなく、泣くようにまた笑うように、ちろちろ[#「ちろちろ」に傍点]と水のせせらぐ音がする、藤吉は耳を傾けた。
「勘。」藤吉が大声を出した。「あの音あ何だ? 水じゃあねえか。」
「あいさ。」と勘次はすまして蔵の前を指しながら、「あれ[#「あれ」に傍点]でがしょう。」
 見ると、幅四寸ほどの小溝が雨水を集めて蔵の根を流れている。藤吉はにわかに活気づいた。
「深えか。」
 勘次は手を入れた。
「浅えや。二寸がものあねえ。」
「どうしてあそこにあんな物が――。」
 藤吉は小首を捻る。味
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