え親分、この草鞋の跡は新しいもんでごぜえます。付いてから一時とは経ってはいめえ、坂本町から横町を通って蔵へ来ている――。」
「ありゃあ、彦、松さんの足形だ。」
 藤吉が言った。味噌松は世辞笑いとともに、
「親分、二階へ上ってお神さんに会ってやっておくんなせえ。」
「あいよ。」と藤吉はなおもそこいらを見下しながら、「松さん、お前さんは御加役《おかやく》だ。一緒に考えて下せえよ。やい、勘、彦、手前たちも聞いておけ。――足袋屋じゃねえが、ここに足形《かた》が三種ある。一つあ死人の高足駄で左手から蔵へ、こりゃあ夜中の雨の最中に付いたもの。あとの二つはお内儀の日和と松さんの草鞋で、共に一時前に騒ぎ出した節踏んだとわかる。こちとら[#「こちとら」に傍点]と小僧のは裸足だから苦もねえが、さてはいった足形《かた》ばかりで出た跡のねえのが、のう皆の衆、ちっとべえ臭かごわせんかい。」
「雨の降る前にここへ来てまだ隠れん坊している奴でも――。」
 味噌松が言いかけた。藤吉は横手を拍《う》った。
「そこだっ、松さん。お前はなかなか眼《がん》が利くのう。彦、蔵から母家から残らず塵を吹いてみろ。飛ん出たら声を揚げ
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