あ言い条、とんだ係合いだのう。」
「なあに、見つけた者の御難でね、知ってるこたあ残らず申し上げてお役に立ちてえと、へえ、こうあっし[#「あっし」に傍点]ゃあ思っていますのさ。――さい[#「さい」に傍点]でげす。今の先刻坂本町の巣を出やしてね、いつものとおり味噌売りに歩くべえと、箱取りと仕入れにこの家へ来て、まっすぐに蔵へ行った折り、坂本町から横町へはいるあたりからや[#「や」に傍点]に土が柔かくて、御覧のとおり右手から蔵まであんな足形を印《つ》けやした。へえ、正しくありゃああっしの跡でごぜえます。」
「箱取りに、まっすぐに蔵へ行ったたあ何のこってすい?」
「担ぎの荷箱を蔵へ預けといて、毎朝自身で出してお店へ廻って味噌を仕入れるのが、親分の前だがあっし[#「あっし」に傍点]とここの店との約束でげしてね。」
「なるほど。して、朝お前さんがくるころにゃあ、お店じゃいつも起きてますのかえ? 七つと言やあこちとら[#「こちとら」に傍点]なんかにゃあ真夜中だが――。」
「なんの。きまって長どんを叩起《おこ》しますのさ。」味噌松は他意なく続ける。「それが親分、今朝あ騒ぎだ。なにしろあの暗え中で旦那の
前へ
次へ
全30ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング