「親分。」彦兵衛が帰って来た。「ぴったり合いやす。あれは八州屋の足形《あしがた》に違えねえ。」
「深かあねえか。」
「へえ、そう言やあち[#「ち」に傍点]と――。」
「彦、仏を動かしてみな。」
孫右衛門は優形《やさがた》の小男、死んで自力《じりき》はないものの、彦兵衛の手一つでずず[#「ずず」に傍点]っとひきずり得るくらい。
「重いか。」
「なあに、軽いやね。」
言いながら彦兵衛がまた一、二尺死骸をずら[#「ずら」に傍点]すと、下から出て来たのは血塗《ちまみ》れの大鉞《おおまさかり》。磨《と》ぎ透《す》ました刃が武者窓を洩れる陽を浴びて、浪の穂のようにきらり[#「きらり」に傍点]と光った。藤吉は笑い出した。
「見ろ。はっはっは、犯人《ほし》あ玄人《くろ》だせ。急場にそこいら探《さぐ》ったって、これじゃあおいそれ[#「おいそれ」に傍点]たあ出ねえわけだ。」
「親分、何か当りでも?」
「そうさな、まんざらねえこともねえが。」
と藤吉は両手を突いて屍骸の廻りをはいながら、
「臓物《ぞうもつ》の割りにゃあ血が飛んでいねえ。いや、飛んじゃあいるが勢《せい》がねえ。」
つと藤吉は立ち上った
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