、案の定暢気そうな藤吉を見出してそのまま躙《にじ》り寄ると何事か耳許へ囁いた。
「遣ったり取ったり節季の牡丹餅《ぼたもち》か――。」
こんなことを言いながら藤吉は他意なく棋盤を叩いていたが、勘次の話が終ると、つ[#「つ」に傍点]と振り向いて、
「手前、何か、その格子の瑕《きず》ってのはたしかか。」
と訊き返した。勘次は大仰《おおぎょう》に頷いて胸板を一つ叩いて見せた。
「三吉の野郎が自害と踏んでいるなら、今さら茶々を入れる筋でもあるめえ。」
と藤吉の眼は相手の差す駒から離れなかった。勘次はあわててまた耳近く口を寄せた。
「うん。」
一言言って釘抜藤吉はすっく[#「すっく」に傍点]と立ち上った。脚が曲っているせいか、坐っている時よりいっそう小男に見えた。
「彦も昼には帰るはずだ。どれ、じゃ一つ掘り返しに出かけるとしょうか。」
床屋の店を一歩踏み出しながら彼は勘次を顧みた。
「巣へ寄って腹拵えだ――勘、ど[#「ど」に傍点]えらい道だのう。」
それから小半時後だった。二人は首筋へまで跳ねを上げて、汁粉のような泥道を竜泉寺の方へ拾っていた。すぐ後から、これだけは片時も離さない紙屑籠
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