だしているその中心――こけ[#「こけ」に傍点]猿の茶壺が、ぶらりとさがって、見つけた若侍の言い草ではないが、さわやかな朝の微風にそよいでいるのですから……。尚兵館の連中、声もない。

       七

「ウーム、皮肉な壺だナ……」
 うめいた高大之進、松の木へかけよって、壺をにらみあげながら、
「探すときには姿も見せず、とほうにくれておると、こうして松の木などにぶらさがっている。だが、いったい何者の仕業であろうナ?」
 あたりの伊賀侍たちをジロジロ眺めまわしたが、こいつだけは誰にも返事ができない。
 とにかく。
 おそろしく変わった風景です。茶壺を荒縄で縛りあげて、そいつがブランと松の枝にひっかかっているんですから。
「昨夜深更に、何奴かが忍びいって……」
「しかし、これが真のこけ猿の茶壺とすれば、そやつは、よほどわれわれに好意を持っておる者と思わねばならぬ」
 屈強の若侍達が、壺を見上げて、ワイワイ言ってる。何かからくり[#「からくり」に傍点]がありそうで、うっかり手出しのできない気持――。
「おろせ!」
 大之進の命令に、一人が、おっかなびっくり背のびをして、そっと壺を、松の根方
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