かけて、お美夜ちゃんがにわかに涙ぐむようすなので、越前守はやさしくのぞきこみ、
「コレ、いかがいたした。その孤児のチョビ安とやらが、どうしたというのじゃ」
お美夜ちゃんはすすりあげて、
「あたい、自分の物なんか何もいらないの。お人形も、お着物《べべ》もいらないから、そのチョビ安兄ちゃんのお父《とっ》ちゃんとお母《っか》ちゃんを、探しだしてくださらない?」
チョビ安を思う純真な気持……子供ながらも、それが眉のあいだに漂っているのを、忠相はじっとみつめていたが、
「ウム、このお奉行のおじちゃんが引き受けた。きっと近いうちに、そのチョビ安とやらの両親を見つけだしてやるであろう」
「ありがとうよ、小父ちゃん」
お美夜ちゃんはもう涙声で、
「まあ、そうしたら、チョビ安兄ちゃんは、どんなに喜ぶことだろう!」
「ウム、明日《あす》かならずお美夜ちゃんにも、うれしいことがあるぞ」
と忠相は、手をうって用人の伊吹大作を呼びよせた。そして駕籠を命じて、すぐお美夜ちゃんをトンガリ長屋へ送らせたのだったが……。
この越前守様の言葉は、翌日さっそく、あのお美夜ちゃんがいらないと言ったお人形やら、美しい
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