え。この穴は、きっと三方子川《さんぼうしがわ》の川底につながっているに相違ねえ」
 もう、鍬《くわ》や鋤《すき》ではどうすることもできない。
 一同は思案にくれてしまった。
 水は、さながら噴水のようにわきあがってくる。
「お父上! お父上! 水の力で浮きあがってこられないの? お父上!」
 チョビ安はもう半狂乱。
「オウ、野郎ども! 三尺をとけ。下帯も――」
 なかば水音に消されながら、石金さんの胴間声《どうまごえ》がひびいた。

       十六

 穴の中から水がわき出たと聞いて、きもをつぶしたのは、結城左京の一派です。もういけない……! これ以上ここにまごまごしていたら、自分たちの身があやうい。
「だめだッ! 引きあげよう」
 ナニ、引きあげるんじゃアない。逃げるんだ。
「もうこうなったら、先へ行った峰丹波殿《みねたんばどの》の一行に追いついて、助勢を借りるよりほかみちはない」
 ささやきかわして不知火のやつらは、サッと刀を引くが早いか、一目散に闇の奥へ消え去った。源三郎と左膳が、生きているか死んでいるか、それを見きわめるひまもなく。
 泰軒先生は、丸太を投げすてて穴のふちへ
前へ 次へ
全430ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング