を、朗々吟じながら――。
棟の焼けおちた大きな丸太を、ブンブン振りまわして、だれもそばへよれない。
のんだくれで、のんき者で、しようのない泰軒先生、実は、自源流《じげんりゅう》の奥義《おうぎ》をきわめた、こうした武芸者の一面もあるんです。
トンガリ長屋の人たちは、この泰軒先生のかくし芸を眼《ま》のあたりに見て、ちょっと穴を掘る手を休め、
「丸太のような腕に、丸太ン棒を振りまわされちゃア、近よれねえのもむりはねえ」
「ざまアみやがれ、侍ども!」
「オウ、感心してねえで、穴掘りをいそいだ、いそいだ」
不知火《しらぬい》の連中は、気が気ではない。泰軒一人でも持てあましぎみだったところへ、文字どおり百鬼夜行の姿をした長屋の一団が、まるで闇からわいたようにとびだしてきて、見る間に穴を掘りだしたのだから、結城左京らのあわてようッたらありません。
それはそうでしょう。
この穴を掘りさげていけば、柳生源三郎と、丹下左膳がとび出す。
猫を紙袋《かんぶくろ》におしこんで、押入れにほうりこんであるからこそ、鼠どもも、外でちっとは大きな顔ができるようなものの……。
その鋭い爪をもった猫が、しか
前へ
次へ
全430ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング