引き下がるから、よウ」
と、しなだれかかるように、侍たちへ肩を寄せてゆく。うすく笑いながら――。
内心に渦まく殺気を持てあまして、その一本腕がうずうずするとき、左膳はよく、こうした酔漢《よいどれ》のような態度をとるのだ。
いわば。
丹下左膳がもっとも左膳らしい危険な状態に達した高潮《こうちょう》。
とも知らない一人が、
「たわけッ!」
どなると同時《どうじ》に、フイと、おどるようなからだつき――足を開き、腰を沈ませたかと思うと、抜きうちに左膳の胴《どう》へ!
刀身に、白く月が冴えた。
どすッと、何か、水を含ませた重い蒲団を、地面へたたきつけたような音がしたのは、今の一刀が、みごと左膳の深胴《ふかどう》にはまったのか……。
と見えた刹那。
ひょろっと手もとへ流れこんだ左膳の体あたり、無造作に持った濡れ燕の柄《つか》が、その切っさきを受けとめて、かわりに、足をすくわれたように空《くう》に泳いでいるのは、かえってその斬りつけたひとり。
ふしぎ!
いつ濡れ燕が羽ばたきしたのであろう。
今の重い音は、かれの上半身をななめに斬り裂いた濡れ燕の、血をなめた歓声だったのだ。
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