唖の娘……その名を、お梶《かじ》という。
 彼女は。
 このたびの御造営に壁を受け持って、京都稲荷山からはるばる上ってきた伊助という左官頭の妹で、お蓮様づきとしてこの一つ家《や》へ送られるまでは、兄や、手下の左官どもとともに、奉行所につづくお作事部屋にいたのですが。
 唖だから、耳は聞こえないけれども、兄伊助とだけは、千変万化の手真似や表情で、かなり複雑な話ができるのも、これは肉親だから、ふしぎはない。
 ここへ来る前、ある夜兄の伊助が、お梶へ、いろいろと手真似をして、こんどあの護摩堂の西側の壁へ、人柱……それも、母と娘の二人を塗りこめることになった――と、話したことがあるのです。
 で、このお梶《かじ》だけは、お蓮様|母娘《おやこ》の悲しい運命を知っている。

       五

 陸つづきの離れ小島……といったのが、今のお蓮様の生活。
 彼女とお美夜ちゃんと、侍女のお梶とたった三人きり。外部とすっかり遮断されて、まるで島流しにされているようなもの。
 日に日に親しみがます。
 ことに、お美夜ちゃんは。
 外へ遊びに出られない退屈さ。遊びざかりの子が毎日雨にとじこめられているよ
前へ 次へ
全430ページ中373ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング