このときからだった。
「江戸から、当|山内《さんない》の作阿弥という者をたずねてまいった者です。どうぞ、作阿弥にお会わせくださいますよう……」
お蓮様の必死の願いにも、足軽どもは相手になろうともしない。
三
この、裏見の滝道の林の中の一軒家。
あそこに住む女と娘は、狂人と白痴だから、何を言っても取りあげるな……警備の役人、足軽たちは上司から、こう言い聞かされている。
「ああ見えていて、狂気だそうだ。娘はまた、生まれつきの馬鹿で、母娘《おやこ》そろってあのありさまとは、なんとも哀れなものじゃのう」
「御造営竣工まで、厳のうえにも厳なる警戒を要する日光御山内に、どうしてまた、ああいう母娘づれの狂人などが、舞いこんできたのであろう」
「さればサ、どこからともなくフラフラッと、鹿沼新田《かぬましんでん》のお関所にさしかかったと申すことじゃ」
「捕えてただしてみても、何を言うやらさっぱり要領を得ぬ。引き渡そうにも、身もとは知れぬし、と言って、ああいう者をさまよわせておいては、清浄森厳《せいじょうしんげん》であらねばならぬ御造営の眼ざわりじゃ。造営奉行の面目にもかかわる」
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