阿弥が振りかえったとき――。

       三

 いつのまにこの谷へくだって来たのか、跫音《あしおと》もしなかったが、と、ギョッ! として作阿弥が、戸口を振りかえってみると……。
 柳生対馬守。
 家老、田丸主水正とただふたり、ほかに供もつれずに。
 制作の進行ぶりを、おしのびで見に来られたものとみえます。
「どうかの? 足曳はおとなしくじっ[#「じっ」に傍点]として、写生の手本になっておるかの?」
 と対馬守、手斧《ておの》や木くずや、散らかっている道具をまたいで、小屋へはいってきた。
 半分板張りになっていて、むこうの土間に、殿の乗馬足曳が、つないである。
 厩《うまや》のように、馬と同居しているのですから、ムッとした臭気《におい》が鼻をおそう。
 それよりも、あわてたのは作阿弥で、彫刻が完成するまでは、誰にも見せたくない。殿様といえども、眼に触れさせたくないので、大いそぎで、ゆたん[#「ゆたん」に傍点]のような唐草模様の大きな布《ぬの》を、ふわりと、彫りかけの馬の像へかけてしまった。
 そして、ひらきなおって、対馬守と主水正の主従を、おそろしい眼でにらみつけた。
「ちと無礼で
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