ごとく天空をも翔《か》けんず尤物《ゆうぶつ》。
 これをおいて、ほかにモデルはない。その足曳が、今この日光の山奥の仕事小屋に、連れこまれて、燃えあがるような作阿弥老人の制作欲の対象に置かれているのだ。
「さア、かいば[#「かいば」に傍点]をやろうなア」
 と作阿弥は、まるで人にものを言うように、しきりにたてがみをなでながら、
「こんどは、ぐっと首を上げて、正面をにらんでいてくれよなア」
 やさしく頼むように言うのですが、いくらりこうな馬でも、そう注文どおりにはいきません。
 道具をほうり出した作阿弥は、すこし離れて、なかば彫りかけた首の像に、見いっている。
 首から胴は一本で、刻みのあとの荒い馬の姿が、なかばできかかったまま立っている。
 が、この未成品、すでに惻々《そくそく》と人に迫る力をもっているのは、やはり、作阿弥の作阿弥たるゆえんであろう。
「ウウム、陽明門の登り竜と下り竜が、夜な夜な水を飲みに出るというなら、この、おれの彫った馬は、その竜を乗せて霧降《きりふ》りの滝をとび越せッ!」
「いや、みごとみごと!」
 作阿弥のひとりごとに答えて、別の声がした。
 馬が口を?
 と、作
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