見違えるほど、活《い》きてきたであろうが」
 あとは、またコツコツと、木を刻む音だけがしばらくつづく。
 深山の静寂は、まるで痛いほど、耳をつきさす。百千の虫、鳥どものなき声が、この静かさの中にこもっているのだ。
 小屋の中は、シインとしている。

       二

 と、思うと……。ふたたび。
「コラコラ、動いちゃいかん! う? 何? もう疲れたというのか、じっと立っておるのは、辛抱ができんか、ははははは、よし、休もうナしばらく」
 別人のように若やいだ、艶のある作阿弥の声。
 ひとりごと?
 それにしても、変だ、さながら話し相手があるような口調である。
 もしここに、彫りあげるまで人に見られたくないという絶対境の作阿弥の芸術心に、些少《さしょう》の尊敬しかはらわない人があって、今この小屋をすき間から、ソッとのぞいたとしたら……。
 アッ!――とその人は、おどろきの叫びをあげるに相違ない。
 やっぱり一人なんだが、話し相手はあるのです。
 馬だ。
 今で言えばモデル。一世一代の思い出に、生けるがごとき馬を彫ろうと、鑿の先に心胆のすべてを傾けることになった作阿弥は、馬の骨格、体形など
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