が長屋を出るとき、あの田丸とかいう柳生の家老に、くれぐれも頼んでいったのも、その、おいらの親を探す一件だ。同じ伊賀の柳生というからにゃア、何かあたりがありそうなものだのに、今もってなんの便りもねえところを見ると、あの田丸のちくしょう、作爺さんやおいらをペテンにかけやァがったんだ。このチョビ安は、世間のやつらにみんな見すてられてしまったんだよ。なアお美夜ちゃん」
「アラ、そんなことないわ。でも、あんただったら、お爺ちゃんのことばっかり考えてるあたしの心が、わかってくれない?」
「ウム、わかるとも、わかるとも!」
「ネ、だからさ、あたし、あのお蓮さんという人に頼んで、お爺ちゃんのあとを追っかけて日光へ連れて行ってもらおうかと思うの」
いくら産みの母親とはわかっていても、今になって、中途から飛び込んできたお蓮様を、お美夜ちゃんはどうしても母とは思えずに、
「お蓮さんという人」
と、こう変な呼び方をしている。
「え? おめえが日光へ行くって? あの、お蓮の野郎と?」
「ほほほ、野郎はおかしいわ。ええ、あたし、いっそそうしようかと思うのよ」
「おい、お美夜ちゃん! おめえはいってえあのお蓮を
前へ
次へ
全430ページ中342ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング