いの者がまいったようじゃ。失礼ながら座をはずしまする。暫時《ざんじ》お待ちのほどを」
 起きあがって、一間《いっけん》の広いお畳廊下へ出た。
 ところどころに置いた雪洞《ぼんぼり》に、釘かくしが映《は》えて、長いお廊下は、ずっとむこうまで一|眼《め》です。
 小姓に案内された玄心斎が、そのとき、すこし離れた小間へ通されるのが見えた。
 無造作な対馬守は、スタスタと大股に歩いていって、安積老人のすぐあとから、その部屋へはいった。
 うしろ手にふすまをしめながら、立ったままで、
「なんじゃ。用というのを早く申せ」
 それへ手をついた玄心斎、雪のような白髪の頭を低めて、
「殿には、いつに変わらず御健勝の体《てい》を拝し……」
「挨拶などいらぬ。なんの用でまいったと言うに」
「またただいまは、御用談中を――」
「客を待たしてあるのじゃ。源三郎から、何を申してまいったのだ」
「殿と、司馬十方斎殿とのあいだに、源三郎様と萩乃様との御婚儀のこと、かたきお約束なりたちましたについて、てまえはじめ家来どもあまた、源三郎様にお供申し上げて、正式にこの江戸の道場にのりこみましたにかかわらず――」
 対馬守は
前へ 次へ
全430ページ中299ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング