た……。
 お蓮様は、ぞっと身ぶるいをして、
「ああ、ほんとうにかわいそうなことをした」
 あの白衣《びゃくえ》の浪人が暴れこんで、道場の跡目に直《なお》ろうとしていたまぎわの、峰丹波にじゃまを入れ、多くの門弟を斬ったのみか、萩乃をつれて消えうせた。あの騒ぎなどは、お蓮様の心のどこにもないのだった。それはみんな自分になんの関係もない、遠い国の、しかも、大昔の出来ごととしか思えないほど、彼女の胸は、源三郎に対する悔恨でいっぱいなのだ。
「ああ、もうなんの欲《よく》も得《とく》もない。源様さえ生きていてくだすったら……」
 司馬道場、峰丹波、それらへの興味はすっかりなくなって、この頃のお蓮様は、まるで別人のように、うち沈んでいるのである。
 萩乃なぞ、あの片腕の浪人にひっさらわれて、どんな目にでもあうがいい。
 今も今。
 無意識にそうひとり言《ごと》を口にしながら、お蓮様が、きっと、血の気のない唇をかみしめたときです。
 故十方斎先生は、此室《ここ》で皆伝《かいでん》の秘密の口述《くちず》をしたもので、大廊下からわかれてこっちへ通ずる小廊下の床《ゆか》が、鶯張《うぐいすば》りになっている
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