間になってしまった。はって、家の中のことだけはできるけれど。
とつおいつ思案して、路地をぶらぶら歩いてくるとたん。
とんがり長屋の角に、一丁の夜駕籠がとまったかと思うと、
「代《だい》は今やる。ちょっと待ってくんねえ」
例によって大人《おとな》びた幼声は、まぎれもないチョビ安。
とんぼ頭を垂れからのぞかせて、駕籠を出るが早いか、眼ざとく路地の泰軒先生を見つけたとみえて、
「オウ、お美夜ちゃんとこの居候《いそうろう》じゃアねえか」
バタバタかけよって、
「オイ、イソ的の小父《おじ》さん、駕籠賃をはらってくんな。酒代《さかて》もたんまりやってな」
と呼吸《いき》をはずませている。
泰軒先生は、星の輝く夜空を仰いで、わらった。
「ワッハッハ、子供か大人かわからねえやつ……貴様は、あの丹下左膳の小姓であったナ」
「ウム、その父上左膳のことで来たんだ。とにかく居候の小父ちゃん、銭を出して、あの駕籠屋をけえしてくんなよ」
だが、それはむりで、泰軒先生にお金があれば、左膳に右手がある。
しかし、血相を変えているチョビ安のようすが、ただごとでないので、泰軒先生の一声に応じ、長屋の誰か
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