、こう時代な言葉でいばってみせたときだ。
すぐうしろで、
「箱根を越してしまやア、もうこっちのものよ。箱根からむこう、お江戸とのあいだにゃア、化け物はいねえからの」
という鉄火な声!
ギョッとして振りむいた一同の眼にうつったのは、ちょうど一行が通りかかっている路傍に、大きな杉の老木……その杉の木の幹によりかかって、ニヤニヤ笑ってこっちを見ている、隻眼隻腕の立ち姿。
噂をすれば影!――出たんです、案の定。
それからのち、またたくうちに、その宇津谷峠の山道の草は、たんまり人の血のこやしをあびて、おまけに、丹下左膳のふところ帳「心願百壺あつめ」には、堀口但馬守おん壺、銘《めい》東雲《しののめ》、宇津谷峠にて……と、書き加えられていた。
これはいくつ目か、わからない。
一、秋元淡路守殿御壺、銘《めい》福禄寿《ふくろくじゅ》、日坂宿手前、菊川べりにて。
一、大滝壱岐守殿おん壺、春日野《かすがの》の銘《めい》あり。
一、藤田|監物《けんもつ》……の場合などは、これはからの壺を守って、宇治へ急ぐ途中でしたが、夕方、丸子の宿へかかろうとするとき、霧のように襲う夕闇に、誰も気がつかなか
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