警護の侍たちはおもしろがって、一人が、
「農工商のうえだと申しても、武士もこうなっては形《かた》なしだ」
 笑いながら、通りすがりに、ドンと左膳の胸をついてゆく。
 左膳は無言、ニヤニヤしながらよろめいています。
「オイオイ、気ふれ殿、行列の中へまいこんでは、邪魔になって歩けぬではないか」
 ほかの一人がそう言って、うしろからグンとこづく。
「これでも、刀を二本さしているから、お笑い草じゃテ」
 一つの手が、左から左膳をつきとばす。
「ワッハッハッハ、竹を二本さしているなら、まず目刺しじゃろうな」
 もう一つの手が、右から左膳を押しかえす。
「気狂《きちが》いも女なら、桜の枝か何か持って、ソレ、芝居にもよく出るやつだが、武士《さむらい》の気狂いでは色気もござらぬ」
「これでも昔は、いずれかの藩に仕官したこともあるであろうに……かわいそうに」
 同情めいたことをつぶやいてゆくやつもある。一同は前後左右から、左膳をつつきまわしながら、多勢の跫音が、ザクッ! ザクッ! と白い砂を蹴って、通り過ぎる。
 しんがりに立っていた、色の真っ黒な、口の大きな侍が、
「エイッ、馬鹿者ッ! 邪魔だッ!」

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