して、じッと戸外《そと》を見守っている人影……江戸へかえったとばかり思っていた若党儀作ではないか。殿の御前をさがってきた儀作、表通りにたちさわぐ人の声々に出てみたところが、あの胡麻の蝿みたいな町人が、小意気な三味線ひきの女とならんで立って、何やら番士のとがめをうけているようす。
ひと眼見るより儀作は、
「オッ! つかまえてくれ! その男だ、その男だッ!」
はだしで土間へかけおりました。と、若侍は何をあわてたものか、二、三人折り重なって、櫛巻の姐御をギュッとおさえつけてしまったから、儀作は頓狂声で、
「女ではない! ソ、その男! 男のほうを……!」
ナニ、同じおさえつけるなら、女のほうがいい――侍たちがそんなことを言ったかどうか。
このあいだに与吉は、肩の壺を地面へほうり出して、キリキリ舞いをしていたが、やがて方向がきまると、一|目散《もくさん》にかけ出した。グイとお尻をはしょった儀作、足の裏を夜空へむけて、追う、追う……追う。
二
不敵な唄声とともに、この本陣の表口に、ガヤガヤという人の気配がわき起こったようすだが。
対馬守はそれを聞き流して、縁側へ立ち出
前へ
次へ
全430ページ中181ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング