れをはいています。
 対馬守と一風と、二丁のお駕籠が本陣の前にとまりました。

       五

 本陣の奥の広間。何やら双幅《そうふく》のかかった床の間を背に、くつろいだ御紋付きの着流し、燭台の灯にお湯あがりの頬をテラテラ光らせて、小高い膝をどっしりとならべているのは、柳生一刀流をもって天下になる対馬守様。
 今宵のとまりは、この程ケ谷。
 一夜の旅の疲れをやすめようとなさっているとき、近侍の者の知らせ……江戸家老田丸主水正の若党儀作というのが、狂気のように、ただいまお眼どおりを願ってお宿へ駈けこんだという注進だ。
 普通ならば、若党が殿様にじきじきお話を申しあげるなどということは、あるべきはずのことではない。
 何人もの口をとおして、言上もし、また御下問にもなるわけですが、旅中ではあり、何分急を要することなので。
 破格のお取りあつかい。
「その儀作とやらを、これへ――」
 となった。
 で、今。
 合羽を取っただけの旅装束のまま、裾をおろした若党儀作……彼は、神奈川の宿はずれで、名も知れない道中胡麻の蝿のために、大事の証拠品の壺をうばわれて、追いかけるまもなく、相手は、地殻を割
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