にはむろん、となりの部屋の萩乃、源三郎にも聞こえなかった。
 朝の闇にとけさった丹下左膳は、このつぎどこに、あの濡れ燕を駆って現われることでしょうか?
 それはしばらく、そのままにして。
 ばつの悪い思いで萩乃様の前に残されたのは、伊賀の暴れん坊です。
 許婚《いいなずけ》どころか、自分としては、もう妻という建て前で、それで丹波とお蓮様一党に対してがんばってきたのですが、こうして萩乃さまとさしむかいになってみると、伊賀の源三、てれることおびただしい。
 相手は几帳面なお嬢様育ち。それが、おもう男の前ですから、いやにかたくなっている。源三郎、すっかりもてあまし気味で、
「えへん、ウフン、ええと、イヤそのなんです。おいおい夏めいてまいりました」
 なんかと、やっている。

   畳《たた》み三味線《じゃみせん》


       一

「は?」
 と上げた萩乃の顔は、パッと美しく上気している。
 それを源三郎はじっとみつめて、
「イヤ、その、実にソノ、なんです……ときに萩乃どの、よく長いあいだ、拙者を思っていてくだされましたなア」
 と伊賀の暴れン坊、心にもないことを、例によってそんな殺し
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